開店前の、私だけの秘密基地時間

スナックをやってた頃の話なんやけど、毎日毎日の仕込みって、正直大変っちゃ大変なんよ。でもね、不思議とあの時間が結構好きだったんだ。お客さんが来る前の、あの静けさの中で作業する時間。
店には私しかいなくて、まな板をトントン叩く音だけが響いてる。そんな中、今日は何を作ろうかなとか、あのお客さんは確かこれ好きだったな、なんて考えながら、黙々と手を動かすのが心地よかった。冷蔵庫から材料を出す音、包丁が野菜に当たる音、フライパンが火にかかるジュワッて音。色んな音が、私だけのBGMみたいに聞こえてくる。
一人でコトコト煮込みながら、今夜どんな会話になるかなって想像して、勝手にニヤニヤしちゃったりもした。このお客さんには、あの時話したあの話の続きをしようかなとか、あの人には、ちょっと気分が沈んでたから、元気が出るようなメニューにしようかなとか。そんな風にお客さん一人ひとりの顔を思い浮かべながら仕込みをするのが、私にとっての密かな楽しみだったんだ。
開店前の、あの独特の静けさ。まだ誰もいない店内に漂う、食材のいい匂い。そして、誰にも邪魔されない、私だけの時間。スナックをやってたからこそ味わえた、小さくて、でもすごく大切な「楽しい」だった。
ほんとは、仕込みって地味で地道な作業なんだけど、私にとっては、これから始まる夜への準備っていうか、なんだかワクワクする時間でもあったんだよね。新しいメニューを考えたり、いつもと違う盛り付けにしてみたり。そんな小さな冒険みたいなものだった。
お客さんにとっては、お店に来て、美味しいものを食べて、楽しい時間を過ごすことが目的だけど、私にとっては、その楽しい時間をどうやって作り上げようかな、っていうのが毎日のミッションだった。そして、そのミッションの始まりが、この仕込みの時間だったわけ。
なんだか、あの頃の自分を思い出すと、ちょっとだけキュンとする。大変だったこともたくさんあったけど、でも、こういう「好き」な瞬間があったから、乗り越えられたんだろうなって思う。それに、あの時間があったからこそ、お客さんとの距離がぐっと近くなった気もするんだ。だって、その人の好みとか、その時の気分とかを考えながら作る料理って、やっぱり気持ちがこもるじゃない?
今でも、ふとした瞬間に、あの仕込みの匂いが蘇ってくることがある。まな板の木の匂いとか、香ばしい調味料の香りとか。そういう時、なんだかホッとするんだ。あの頃の私に、「よく頑張ったね」って言ってあげたくなるような、そんな温かい気持ちになる。
あの静かな時間の中で、私は色んなことを考えて、色んなことを感じていたんだなって、今になってわかる。もしかしたら、あの時間は、私自身を癒すための、自分だけの「ご褒美」だったのかもしれないな。またいつか、あんな風に、誰かのために、心を込めて何かを作る時間が持てたらいいなって、ふと思ったよ。😌
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